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大阪地方裁判所 昭和29年(タ)38号 判決

主文

原告と被告とを離婚する。

原告を原被告の未成年の子川村一郎及び川村次郎の親権者と定める。

被告は原告に対し金十万円を支払え。

原告その余の請求は棄却する。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

(省略)

理由

当裁判所が真正に成立したものと認める甲第一号証(戸籍謄本)、原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認める同第二号証、証人小浜幸子、同川村一二三、同川村ふさ及び同山野ナミの各証言、原告本人並びに分離前の被告高木正和の各本人尋問の結果を総合すると、原告は竜野市所在の私立竜野実業高等学校卒業後、肩書本籍地で農業に従事していたところ、昭和十九年三月頃従妹にあたる被告と事実上の婚姻をし、同二十年一月十日婚姻届出をしたこと、両者の間に昭和二十年十二月十四日長男一郎が、同二十三年十二月二十五日次男次郎が出生したこと、原告は一時応召したが終戦後復員し、姫路市や竜野市でフライビンズ等の製造販売、食料品の販売を営んでいたところ将来の見込もつかないので同二十八年大阪に出て大淀区に住み、伊藤機械工作所や大日本機械工業株式会社に勧めるようになつた。しかし当時月給八千円前后で生活が苦しく困つていたので、親戚のすすめなどもあつて、原被告合意の上、被告が料理屋「いろは」に仲居として働くようになつたこと、ところが被告は同年九月頃右「いろは」の客である山野正一と知り合い、その後会う機会を重ねる毎に懇意となり、外泊することもあつて原告より疑惑の目で見られていたが同年十一月には深夜同人に自動車で家の近くまで送つて貰い、そこで同人と抱き合つたりなどしているところを原告に見られたため夫婦間に深刻な争を生ずるに至つたが、遂に同年十二月初旬旅館で右山野と肉体関係を結ぶに至り、以後殆ど帰宅せず、同月十八日頃大阪市阿倍野区阪南町東二丁目十七番地阪南荘アパートの一室を借りて此所に移り、完全に原告の許を離れたこと、昭和二十九年一月中旬には右山野も亦同アパートに移り住み、爾後同年二月二十一日、原告が同アパートを訪れ同衾の現場を見られるまでの間、被告と共に夫婦同様の生活をしていたことを認めるに足る。

そして以上のような被告の行為は民法第七百七十条第一項第一号に所謂配偶者に不貞な行為があつたときとあるに該当すること明かであり且原告は被告の右不貞行為により精神上苦痛を受けたことも亦明白であるから被告は原告に対し相当の慰藉料を支払うべき義務あるところ前記各証拠により認められる原告の性行経歴、社会的地位及び被告との婚姻継続期間、その他諸般の状況を参酌するときは右慰藉料は金十万円を以て相当とすべく、原告の請求はこの限度において理由があり、その余は失当として棄却すべく、且つ仮執行の宣言はその必要がないから之を付さないこととする。又原告は前記一郎及び次郎に対し、親として充分の愛情を持ち、経済的にも之を養育することが不可能でない状態にあるのに反し、被告には右二子を養育する熱意のないことも亦前記各証拠により認められるところであるから、同人等の権親者はいずれも原告とするのを相当とする。

よつて訴訟費用につき民事訴訟法第八十九条、第九十二条但書を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 乾久治 入江教夫 井上孝一)

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